日本人成人男性のおよそ3人に1人が薄毛という。約1260万人にも上る巨大マーケットの掘り起こしに力を入れる業界や企業による、AGA(男性型脱毛症)対策アピールがこの夏盛んだ。今時の育毛は「明るく」「オープン」がキーワードのようで…。(重松明子)
週末の渋谷マークシティのコンコース。往来が激しい通りで、頭皮に汗を浮かべる男性の行列が目をひいた。見たところ20~50代。並んだ先に「男髪屋台村」の大看板がかかげられ、蒸し暑いブースのなかは大盛況だ。専門医による薄毛治療相談、頭皮チェック、髪形アドバイス、ヘッドスパなどの対策が無料で受けられるとあり、「何時までやってるの?」と興味津々で尋ねる姿も。
ブースから出てきた足立区の会社員(51)は晴れやかな表情だった。「男はみんな悩んでるのに、みんな人には言わないんだよ。自分もこっそりネットで情報を集め、漢方薬なども試してきたけど、これでいいのか不安だった。最新の治療法を聞いて道が開けた気分」。「夫の髪がまた生えてきたらうれしい」とは連れ添う妻(47)。「だけど、こんなに人目につく場所に並ぶ男の人たちが気の毒にも見えるわね」
相談を担当した東京メモリアルクリニック・平山の院長、佐藤明男医師は「恥ずかしい思いをした方も大勢いたと思うが、明るいイメージづくりをしたかった。一人で悩み、効果のない対策をあれこれ、あるいは延々と続け、髪と時間とお金まで失う“薄毛難民”があふれている。正しい情報の提供、啓発を今後もオープンにやっていきたい」。
主催は、医師や企業で構成する「AGA対策プロジェクト」。だが、病気ではない男性の薄毛対策啓発活動を、大々的にやる必要はどこにあるのだろうか?
佐藤医師は「ハゲでもいいと開き直れる人には必要ありません」と前置きしつつ、「現実には恋愛や仕事などに対して積極的になれない、劣等感など、薄毛が精神にマイナスの影響を及ぼしているケースは多い。充実した人生を送るために、薄毛の早期発見、早期治療をお勧めします」。
佐藤医師の調査では日本人男性の薄毛発症年齢は平均29歳で、低年齢化が指摘されている。プロジェクト参加企業の万有製薬が販売するAGA治療薬フィナステリド(プロペシア)錠は爆笑問題のCMで知名度を高め、平成17年末の発売以来、毎年2けた増の売り上げを更新。21年には約150億円に達した(医薬品市場調査会社「IMSジャパン」調べ)。治療予算は月1万円程度が目安。不況下での急速な普及ぶりに、治療への期待の高さが表れている。
一方、ヘアケアや髪形の工夫は薄毛対策の第一歩。ヘアスタイリングのブースに1時間も並んだ世田谷区の保険代理業者(45)は、薄目の後頭部をソフトなワックスで立ちあげ今風に変身。「仕事柄若々しい印象が大切ですが、夏場は特に髪がペタッとなるのが悩み。参考になりました」
17年にアンファーが発売した薬用シャンプー「スカルプD」は吉本芸人による育毛成果の公開などが話題を呼び、4800円からと高額にもかかわらず、4月に累計200万個販売を達成した。この夏、フジテレビのイベント「お台場合衆国」にブースを出店するなど、明るい薄毛対策アピールで切実な男心をつかんでいる。
女性から見ると、自然にハゲを受け入れればラクになるのに…とも思う。しょせん人ごとだから?